郵便事情の憂鬱

    2週間程前、帰宅すると自宅の郵便受けに何やらちょっと厚みのある茶封筒が。何だろう?よく見ると、ちょっと見慣れた字が…。?…あれ?!私の字??急いで取り出してみたら、なんとそれは私が昨年12月にメルボルン在住の友達に送ったグリーティングカードとプレゼントの猿の置物の入った郵便物だった。

太平洋を2度も縦断した郵便物


    えぇ??封筒には保管期間が切れたので差出人に戻す、とのスタンプが。しばらく私書箱へ郵便物回収行けてなかったのだろうか?それとも、「オーストラリア・ポスト」の不手際か?と思いながら、取り敢えずメールしたところ、あぁぁ!去年私書箱、変えたんだよ!って。
    えぇぇぇ??言ってよ~~!!だが、確かに通常連絡を取る時はメールだし、手紙類を送るのは年に1、2度あるかないか。自宅住所を変えたわけではないから、わざわざ連絡が来なかったのは仕方がないか…。さて、どうする、この猿?“賞味期限”切れになる前に収まるべきところに届けたいが…。
    ところで、その私書箱。オーストラリアでは私書箱を利用する個人が多い印象がある。その心は、というと、一つには自宅住所をいちいち晒したくない、ということがあるのだろうが、やはり自分の郵便物を“ちゃんと”受け取るため、というのが一番の理由だろう。
    オーストラリアの郵便受けは、特に集合住宅だとしっかり作られていないところが多く、雨風をよけられない野ざらし状態の場所にあるところも。従って、折角届いた郵便物が濡れていたり、あるいは実際に私が経験したことだが、ナメクジが這った跡があって、その部分に少々穴が開いてしまっていたりするようなことがままあるのである。

ある日散歩の途中で出会った郵便受け

    そして当然施錠などしていないので、郵便物が消えてしまうことも。向こうでは小切手を裸のまま封筒に入れて送ったりするので、例えばクリスマス時期には祖父母から孫に、というようにプレゼントとして小切手が送られることも多いので、そういう封筒を狙った犯罪が増えている、というニュースを見たことがある。

    そして何より、向こうの郵便屋さんの郵便の扱いは日本の郵便屋さんほど丁寧ではないので、郵便受けに入らないサイズのものは郵便受けの上や、各戸の玄関先に放置されることもしばしば。後者の場合はわざわざドアのところまで持ってきてくれた、ということは大変な評価に値することだけど、結局放置するのでは郵便物が汚れたり、破損したり、はたまた盗まれたりしてしまうことだってあるだろう。
    このようにオーストラリアには“ちゃんと”郵便物を受け取れないかもしれないいくつかの“危険”があるのだが、オーストラリアの名誉のために言っておくと、あの国が伝統的に郵便事情がお粗末な国だ、ということはないように思う。なぜなら、私が1970年代に住んでいた時には、そのようなことが問題になったことは我家では一度もなかったと記憶しているし、その後も私は日本とオーストラリア間に数多くの郵便物を送り続けて来たが、極最近になるまでトラブルは一度も経験したことがなかったのだ。
    ところが、どうも近年オーストラリアの郵便事業会社「オーストラリア・ポスト」の評判がすこぶる悪い。つい数週間前もメディア上で同社は“大炎上”していた。何でもこれまで私書箱に届いた郵便物は郵便局が10日間無料で保管、それで引き取られなければ差出人に戻す、というシステムだったが、新規導入が予定されていたシステムでは保管期間を最大30日間まで延長するものの、無料保管期間は5日に短縮。それを越えると有料となる(16日~30日間だと$9)ことになってしまったのだ。会社側からしてみれば、10日で返していたものを30日まで保管するのだから文句は出ないだろう、という読みだったのだろうが、それは見事に外れた。
    今回この郵便保管料の一件が各方面から集中砲火を浴びたのは、そして、遂にそのシステムの導入を見送らざるを得なくなったのは、それまでにオーストラリア・ポストに対する不満が相当利用者の間に溜まっていたからだろう。今回の新しいシステムを批判する人たちは口々に「今でもいい加減高い郵便料を払っているのに!」言っていたが、それはきっと今年の1月頭から実行に移された新しい郵便の料金体系のことを指しているのだろう。
    これまでオーストラリアの郵便は、日本でもそうであるように大まかに言って「普通郵便」と少し高い料金を払い早く届けてもらう「速達」の二つのカテゴリーに分かれていた。それが年初からオーストラリア・ポストは「普通郵便」と「速達」の間に「プライオリティ」(優先郵便、だろうか)というカテゴリーを設定。「普通郵便」の料金(手紙は$1)にプラス50セントの手数料を払えば「普通郵便」より早く1~4日で郵便を配達します、とした。結果「普通郵便」は「優先郵便」より更に2日余分に配達に時間を要することになってしまった。

新規導入の「優先郵便」カテゴリーのプロモーションビデオ


    これも一見「速達」より安い金額で早く届けてくれる良いシステムに聞こえるかもしれないが、例えばシドニー‐メルボルン間だと今まででも4日もあれば届いていたように思うので、要は通常料金の「普通郵便」がより遅配されることなんだ、と読むことが出来る。実質の値上げ、とも言えるか…。
    そして今回これを書くに当たり調べていて知って驚愕したのは、手紙の「普通郵便」の料金が先ほども記載したように$1になっていたことだ。私が2013年半ばに帰国した頃には、確か65セントぐらいだったように思う。若干記憶が不正確なところがあるかもしれないが、それでも70セントを越えていた記憶はなく、つまりたった3年の間に30セントぐらい一気に上がった訳で、その値上げの仕方は尋常ではない。そのような経緯を知ると利用者が今回の保管料の一件で激怒するのはとてもよく理解出来る。
    オーストラリア・ポストがこう次々と利用者からお金を巻き上げる…というと言葉は悪いが、お金を徴収するシステムを導入しようとするのは、とりもなおさずオーストラリア・ポストの経営が苦しいからだ。その原因を分析するキャパは私にはないけれど、ただ何より肝心の顧客に対するサービスが劣化していってしまっていることに一因があるのではないか。
    上述したように郵便物の配達状況は決して褒められた状況ではない。そして例えば各戸のドアまで届けなければいけない荷物を、郵便配達人がドアまで行くのは面倒、とばかりに、初めから不在票を郵便受けに入れて去ってしまう事例まで数々ある(つまり、受取人が終日家にいたのに不在票が入っていた、というケース)、ということになってくると、料金値上げの前にやらなければならない利用者の憂鬱を取り除く業務改善が沢山あるように思われる。

街の郵便局@ポート・メルボルン


    因みに、オーストラリア・ポストのサービスについては、自分の経験を踏まえてまだまだ沢山ネタがある。が、それはまた次の機会に譲りたい。



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Yoko Harada

原田容子: オーストラリア・ウオッチャー。子供時代の一時期を父親の転勤にてシドニーで過ごす。以来オーストラリアとの交流が続き、2003年にそれまでの会社勤めを辞め、シドニー近郊のウーロンゴン大学に留学。修士号、博士号(歴史・政治学)取得。在メルボルンのディーキン大学で研究フェローを務めた後、2013年帰国。外務省の豪州担当部署に一年勤務。現在は個人でオーストラリア研究を継続する傍ら、大学で教える。