裏庭の野鳥たちの“国勢調査”

 12月に入り、オーストラリアは「夏」に入った。これから日差しもどんどん強くなってくるが、オーストラリアは夏に限らず、太陽光線がとても強い。それが原因の皮膚ガンの罹患率の高さは有名だが、オーストラリアの自然がカラフルに輝いて見えるのは、そのような光線の加減もあるのだろう。
 そんな中でひときわ目立ってカラフルに見えるのが鳥たちだ。色もそうだし、種類のバラエティも豊富だ。私はどうも動物や鳥たちに無頓着なまま大人になってしまった人間なのだが、オーストラリアではそんな私でもその存在感のせいか、いやでも鳥たちが目に入ってくる。家の周りを散歩していてもよく目につくので、時々写真を撮ったりもした。そのお蔭で以前は雀と鳩と烏の区別ぐらいしかついていなかった私が、馴染みの鳥は見分けがつき、名前も覚えられるようになった。
 そのオーストラリアの野鳥たちの“国勢調査”なるものが10月に行われたそうで、その結果が先月末報道されていた。その“国勢調査”は「Aussie Backyard Bird Count」(オーストラリアの裏庭の鳥たちの個体数調査)というプロジェクトで、毎年10月に行われているらしい。事前に登録した一般の参加者たちが期間内に身近なところで見かけた鳥の種類と数を報告。それを集計して結果が発表されている。日本野鳥の会と同様の組織と思われるBirdLife Australia、そしてBirds in Backyard Programが共同で行っている調査だ。
 その結果を見ると、あぁ、やっぱり!1位から5位までは私もよく見かけた鳥たちだ。1位はレインボー・ロリキート。そして、2位、ノイジー・マイナー、3位、オーストラリアン・マグパイ、4位、コッカトゥー、5位、ガラ、と続く。

レインボー・ロリキート


ノイジー・マイナー


オーストラリアン・マグパイ


コッカトゥー


ガラ


この中で4位のコッカトゥーだけが、馴染みがかなりあるにも関わらず、自分で撮影した画像が出て来なかったのでBirdLife Australiaが運営する「Birds in Backyards」というサイトのスクリーンショットを掲載させてもらったが(撮影者はBird ExplorersのK VangとW Dabrowka)、他は私が撮ったものだ。このようなカラフルかつ多種多様な鳥たちが日常の生活圏にいることがわかってもらえると思う。
 シドニーの郊外の住宅地に住む知人の老夫婦は、もう何十年も前からこのような鳥たちを餌付けしている。2人で静かに暮らしている夫婦だが、夕刻が近づいてくると鳥たちにやるエサの準備で忙しい。鳥たちもそれはよく知っていて、餌やりの時間が近づいてくると、周りの木々に集まって来て待っている。そして裏庭の芝生の上に餌を置くと、一斉に餌目掛けて飛んでくる。その一番手がレインボー・ロリキートだ。



 その一団が落ち着くと、1羽、2羽、とノイジー・マイナーやマグパイが姿を現わす。



 そして、今回のランキングのトップ10には入っていないが、私も日常よく出くわしたクッカバラ(ワライカワセミ)がしんがりでやって来る。


ふさふさしていてとてもかわいい。が、その鳴き声は大きく、日本名の通り本当に人が笑っているように聞こえる。たまたま躓くなど、何か失敗した時にその声が聞こえてくると、クッカバラに笑われているようで感じが悪い。
 クッカバラ、マグパイ、ノイジー・マイナーは肉食。このお宅では昔はカンガルー肉をあげていたが、近年は格上げ(?)で牛肉となっている。またノイジー・マイナーはご飯で餌付けし、今はご飯を食べにくるのだそうだ。



 また、ランキングの9位に入っているカモメは、日本でもお馴染みだろうが、ビーチの国オーストラリアではもちろん常連さん。とても人馴れしていて、人が食べ物を広げだすと、1羽、2羽…50羽!のような勢いで寄ってきて、あっという間にヒッチコックの「鳥」状態になってしまい、怖い。サンドイッチを奪い取られた、と怒っていた友達もいた。



 水際、と言えば、やはりよく出会ったのがペリカンである。これは留学をしていた地、ウーロンゴンの港のペリカンたちだ。電柱だかの上にのんびり、上手に座っていて、いつ見ても飽きなかった。



 ところで、オーストラリアでは野生動物や鳥類の保全に熱い。今、世界中同様の流れにあると思うが、オーストラリアの場合はコアラなどに象徴されるあの大陸にユニークな種が多く生息し、個体数の減少が懸念される種も多くいることから、更にそのルールが徹底している。そしてオーストラリアの人たちは野生動物との接触の仕方を子供の頃からを教わっているのだろう。
 例えば、滅多にあることではないが、バッタリ“野良”コアラに本来の生息地ではない、それこそ道路や裏庭などで遭遇し、なかなかブッシュに戻って行かない時には、ちゃんと地元の保護団体に連絡をして、プロに保護してもらう必要がある。野生のコアラに出会うことは非常に珍しいが、今年7月には帰宅したら、家のソファにコアラが座っていた、というケースがニュースになっていたぐらいだから、ないことではない。

SBSのニュースサイトから


 そういった場合、かわいい!と近寄って、触ったりしてはいけない。コアラは見た目、かわいいが、案外鋭い爪を持っていて、扱いを知らない人が対処し攻撃されたら怪我をする可能性がある。またコアラ自体がちょっと見ただけではわからない怪我をしていたりすることもあるから、やはりヘタにシロウトが触らない方が良いのだそうだ。

 そんな野生動物遭遇時のルールがわかってきたウーロンゴン留学時代のある日、私はちょっとした“野生動物保護騒動”に遭遇した。
 休日にその当時住んでいた学生寮から買い物に出ようとしたところ、寮とメインの道路を結ぶエリアに広がる芝生のグラウンドに一羽の鳥がうずくまっているのが見えた。その鳥、寮の周りで時々群れで見かける、足が長く、顔が黄色いちょっと不思議な鳥だったのだが、実はその一羽の鳥はその前日からそこにうずくまっていたのだ。一昼夜そこにじっとしていたのか?どうしたんだろう?怪我?
 気になりつつ一旦買い物に出て、戻ってきたら、やっぱりまだ同じところに微動だにせず座っている。顔は時々動くので死んでいるのではない。これはいよいよ飛べなくなった怪我した鳥だ、と思い、保護団体に連絡を入れなくちゃ、と思った。オーストラリアでの野生動物保護のイロハ、いやABCである。部屋に急いで戻ってネットでそのエリアの団体を検索。これは、というところが出て来たので電話番号を控えた。
 そして、さぁ、電話を、と思ったが、そこは私の家でも公の土地でもなく、寮の敷地内だったので、外部の人を招き入れるために一応寮長に事前に報告しておこうと思った。携帯に電話をしたら、寮長・ジェームスはすぐ電話に出てくれたので、事情を説明。これから保護団体に電話をしようと思う、と伝えた。
 そしたところ、少し間をおいてからジェームスが「ねぇ、容子、その鳥ってひょっとしてちょっと足の長い、顔が黄色い鳥じゃない?」と聞いて来た。「そうだけど…」と答えたところ、ジェームスはやっぱり!というニュアンスで、曰く「それは卵を温めているんじゃないかなぁ?」 「ええ?!た・ま・ご??」


 ビックリした。そんなオープンなグラウンド(普通は学生が球技などをして遊んでいる場所だ)で卵を温めるのか?不用心ではないのか?
 ジェームスによると、その鳥…名前はMasked Lapwing(マスクド・ラップウィング)というのだそうだが…は平地に巣を作る習性があって、実は数日前から寮の敷地内の別の場所にも一羽しゃがんでいるのがいるのだ、と。そして、どこか近場に父親の鳥がいて、周囲を見張っていて、万が一の時には母鳥と卵の防衛に文字通り飛んでくるんだ、ということを教えてくれた。結構攻撃的な鳥だから、人間もヘタに近づかない方が良い、と。
 何だか感心しきり、ものすごく勉強になった出来事だった。それから数日後にそのエリアを通りかかった時にはもうその鳥はいなかった。無事卵が孵って、一家で去って行ったのだろうか?ままならぬエピソードが隠されているオーストラリアの“裏庭”、なのである。

 さて、酉年の来年、オーストラリアからはどんなニュースがもたらされるのだろう。楽しみだ。



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Yoko Harada

原田容子: オーストラリア・ウオッチャー。子供時代の一時期を父親の転勤にてシドニーで過ごす。以来オーストラリアとの交流が続き、2003年にそれまでの会社勤めを辞め、シドニー近郊のウーロンゴン大学に留学。修士号、博士号(歴史・政治学)取得。在メルボルンのディーキン大学で研究フェローを務めた後、2013年帰国。外務省の豪州担当部署に一年勤務。現在は個人でオーストラリア研究を継続する傍ら、大学で教える。