この週末、記録的な大寒波に見舞われた日本列島。奄美大島では115年ぶりに雪が観測されたというようなニュースも流れていたが、そんな中、南半球のオーストラリアからは連日“あつい”ニュースが届く。気候が“暑い”、ということもあるが、メルボルンで開催中のテニスの全豪オープンでは毎日数々の“熱い”戦いが繰り広げられている。
全豪が開催されているメルボルン・テニス・パークのコートの名前に名を残すロッド・レーバーやマーガレット・コートを初め、ジョン・ニューカム、イヴォンヌ・グーラゴン・コーリー等の名選手を生んだオーストラリアはテニス大国で、夏には全豪だけでなく複数の大会が開催されるため、この季節をSummer of Tennis、テニスの夏、と呼ぶこともある。しかし、その夏もそろそろ終わりに近づいてきている。そして夏休みモードも。
お正月は基本2日から通常営業となるオーストラリアだが、この時期に長期の休暇を取る人も多いので、国全体がお休みモードから徐々に目覚めて、本格的に始動する感じがするのはこの時期。学校の新学期もそろそろスタート。12月頭ぐらいから特別番組が増えるテレビやラジオも通常プログラムに戻る。このオフ・モードをオン・モードに切り替えなければならない時期にやってくるのが、1月26日の国民の祝日「オーストラリア・デイ」、オーストラリアの建国記念日である。
とは言え、オーストラリア連邦の成立は1901年1月1日なので、1月26日は現在の国家の建国日ではない。では何の日か、と言うと、1788年に英国がオーストラリア大陸への入植を決め送り出した入植者を乗せた11隻の船による「第一船団」が、現在シドニー・ハーバーブリッジ、オペラハウスで有名なジャクソン港に入港、乗船していた入植者たちが上陸をした日なのだ。
しかしこれはオーストラリア大陸にヨーロッパから人がやってくる前から…何万年も前から…そこに住んでいた人たち、つまり先住民の人たちからすれば、正に侵略が始まった日、ということになる。現在オーストラリアの全人口(2,300万人)に占める先住民の人たちの割合は3%。今でも生活水準、医療、教育、あらゆる面で不利益を被っている。
そのような現状のため、オーストラリア・デイが近づくと欧州人の侵略を批判し、先住民の権利・尊厳の回復を訴える声が先住民自身やそれに賛同する人たちから上がる。アピールの一環で国旗が燃やされるようなことも起こる。今年も有名ジャーナリストで、自らも先住民であるスタン・グラントが昨年10月、オーストラリアの先住民がマイノリティーとして受けている不利益、差別について非常に強い口調で訴えたあるディベート会場でのスピーチの動画が数日前からネット上で話題になっている。
建国記念日は単純に国家の誕生を国民皆が同様に祝う、めでたい日、ではないのである。
では実際のところ、多くのオーストラリア人にとって、この日はどんな日なのか。国旗を掲げたり、国旗をあしらったグッズを身に付けたり、いかにもオーストラリアらしくバーベキューを楽しんだり、愛国心がぐっと高まる日のようにも見える。特に近年、その傾向は強まっている。
しかし、今年二大スーパーマーケットのウールワースとコールスが揃ってオーストラリア・デイの直前に起こした“不手際事件”を見ていると、何かオーストラリアらしい緩さを感じずにはいられない。ウールワースの方はオーストラリア大陸の形をあしらった帽子を発売したが、地図からタスマニア島が欠落していることが判明して、商品を店頭から引いた。もう一方のコールスは店内に吊った国旗の中の南十字星が裏焼きされた形でプリントされていて、国旗を降ろした。正に大事な建国記念日にこれである。
第三者の眼差しで眺めていると、オーストラリア・デイというのは、過ぎていく夏を惜しみつつ、通常モードに戻る前に、お祭り好きなオーストラリアの人たちがもうひと騒ぎし、愉快に過ごす日、という風に見えるのである。
Happy Australia Day!