「シンガポールのデジタル経済」

前回の「今後のシンガポール経済で需要のあるスキル」レポートで3つの新興分野を紹介しましたが、そのうちの1つがデジタル経済です。今回、シンガポールのデジタル経済について、より深く掘り下げていきます。

デジタル経済の定義

デジタル技術を活用したデジタル製品やサービス、デジタルプラットフォーム、ビジネス活動の生産と消費を広く包含しています。

シンガポールでのデジタル経済

シンガポールは、世界トップクラスの技術主導型都市国家を目指しています。テクノロジーを活用し、人々や企業の生活、仕事、遊びのあり方を変える「スマート・ネーション」を目指して、自らを変革しています。

「スマートネーション」を目指すために、シンガポール政府は下記の3つの柱を定めています。

  • デジタル社会
  • デジタル経済
  • デジタル政府

デジタル経済は、最新のテクノロジーを活用してプロセスをデジタル化し、ビジネスの成長を促進するものです。その結果、海外からの投資を呼び込み、シンガポールの人々に新たな雇用と機会を創出できます。

シンガポールのビジネス環境、優れた技術インフラ、アジアの主要国との緊密な接続性、そして投資の可能性は、強力なデジタル経済を発展させるための好位置にあると言えます。

デジタル経済戦略

シンガポールの強みを生かし、デジタル経済を発展させるために、3つの戦略的優先事項を掲げています。

  1. Accelerate:Digitalising Industries(加速する:産業のデジタル化)
    → あらゆる産業、あらゆるビジネスをデジタル化し、生産性と効率性を高めて経済を成長させること
  2. Compete:Integrating Ecosystems(競争する:エコシステムの統合)
    → 企業がデジタル技術を活用できるよう支援することで、企業が活気と競争力を維持し、シンガポールの競争力を研ぎ澄ますためのエコシステムを開発すること
  3. Transform:Industrialising Digital(変革する:デジタルの産業化)
    → Infocomm Media (ICM:情報通信メディア)産業がシンガポールのデジタル経済の重要な成長ドライバーとなるように変革すること

上記の3つの戦略的優先事項は、4つの重要な手段で実現できます。

  1. 人材育成
    → ICM の専門家を育成し、デジタル経済に挑戦するためのデジタルリテラシーを高める為に、スキルアップと再スキルを継続的に行う

  2. 研究とイノベーション
    → ロードマップを作成し、新しい技術開発の情報を提供することで、企業が最新の技術動向を把握するための競争力を提供する

  3. 物理的・デジタル的インフラ
    → テクノロジーの進化に伴い、シンガポールのインフラを強化し、デジタル接続を強化するために継続的に投資する

  4. ガバナンス、方針と基準
    → 堅牢なデータプライバシー法、サイバーセキュリティ、データ保護、およびデータポリシーとAIなどの関連活動のガバナンスを継続的に調整する

他国とのデジタル経済協定

シンガポールはデジタル経済協定(DEA)を同じ志を持つ他の国々と結んでいます。

DEA (Digital Economy Agreement)とは、2つ以上の経済圏の間でデジタル貿易のルールやデジタルエコノミーの協力関係を確立するための条約です。シンガポールは主要パートナーとのDEAを通じて、標準やシステムの相互運用性を促進する国際的な枠組みを開発し、デジタル貿易や電子商取引に従事するのビジネス、特に中小企業を支援したいと考えています。

貿易のデジタル化に伴い、データのローカライズやソースコードの開示を強制するような規制が注目されています。また、データ保護に関する規則が細分化されたことで、個人データの転送に関する制約が多様化し、コンプライアンスコストが増加しています。

DEAは、以下のことを行います。

  • デジタルルールと基準を整合させ、デジタルシステム間の相互運用性を促進する
  • 国境を越えたデータの流れをサポートし、個人情報と消費者の権利を保護する
  • デジタルアイデンティティ、人工知能(AI)、データイノベーションなどの新興分野におけるシンガポールの経済パートナー間の協力の促進(これにより、企業はさまざまな国でユースケースやテクノロジーを試すことができるようになります。)

DEAは、シンガポールの広範な自由貿易協定やその他のデジタル協力イニシアティブのネットワークを構築することを目的としています。また、世界貿易機関(WTO)において、シンガポールは電子商取引に関する共同声明イニシアチブ(JSI)の共同議長(オーストラリア、日本とともに)を務めており、その指導的役割も補完しています。

現在、シンガポールは4つのDEAに関する交渉を終えています。今後、シンガポールの方針に賛同する経済圏との交渉をさらに進めることを視野に入れています。

Digital Economy Partnership Agreement (DEPA)

  • デジタル経済パートナーシップ協定
  • 2020年6月12日、シンガポール、チリ、ニュージーランドが調印する
  • デジタル貿易問題における新たなアプローチと協力体制を確立し、異なる制度間の相互運用性を促進し、デジタル化がもたらす新たな問題に対処する初めての協定
  • DEPAは、エンドツーエンドのデジタル取引を促進し、信頼できるデータの流れを可能にし、これらの国々のデジタルシステムに対する信頼を構築する

Singapore-Australia Digital Economy Agreement (SADEA)

  • シンガポール-オーストラリアデジタル経済協定
  • 2020年8月6日、シンガポールとオーストラリアが調印し、2020年12月8日に発効する
  • SADEAは、シンガポール・オーストラリア自由貿易協定に基づく、両国間の既存のデジタル貿易協定を強化するもの
  • AI、データイノベーション、デジタルアイデンティティ、個人情報保護、電子請求書、貿易円滑化、農産物の電子認証の分野における協力プロジェクトを特定またはマッピングすることにより、DEAのいくつかのモジュールを運用するための7つの覚書が含まれている

United Kingdom-Singapore Digital Economy Agreement (UKSDEA)

  • イギリスーシンガポールデジタル経済協定
  • 2021年12月9日、シンガポールとイギリスが調印する
  • データなどのデジタル経済の基盤に関する拘束力のある分野に加え、人工知能、フィンテック、レグテック、デジタルアイデンティティ、リーガルテクノロジーなど、幅広い新興・革新分野における協力的な要素が含まれている

Korea-Singapore Digital Partnership Agreement (KSDPA)

  • 韓国ーシンガポールデジタルパートナーシップ協定
  • 2021年12月15日、シンガポールと韓国が調印する
  • この協定は、デジタルシステム間の相互運用性を促進するために、将来を見据えたデジタル取引のルールと規範を確立することにより、両国のデジタル経済における二国間協力を深化させるもの
  • これにより、よりシームレスな国境を越えたデータの流れが可能になり、我々の企業や消費者にとって信頼できる安全なデジタル環境を構築することができる