「シンガポール労働法〜雇用要項〜」
前回は、シンガポールにおける公正な採用活動に関するルールと、その留意点についてご紹介しました。
従業員の採用が決まったら、次は採用時とその後の雇用に必要な書類の準備と手続きを行います。今回は、企業が従業員を雇用する際に法律上作成が義務付けられている書類と、その他の重要なポイントについて説明します。
雇用契約書
雇用契約(英語:Contract of Service)は、雇用条件など、雇用主と従業員の関係を定義するものです。労働時間や職務の範囲など、主要な雇用条件や必須条項が含まれていなければなりません。
契約は、書面、口頭、明示、黙示のいずれでも可能です。任命書や雇用契約書、実習契約書などの形式も可能です。しかし、合意した条件についての紛争を最小限に抑えるため、契約は書面で行うことが強く推奨されます。
また、契約の条件が労働法(EA)の関連規定より不利な場合、その条件は違法、無効とみなされます。無効な条項がある場合、EAの規定がその特定の契約条件より優先されます。雇用主は、従業員が書面で同意しない限り、雇用契約のいかなる条件も変更することはできません。
雇用契約開始・解除
契約の開始
雇用契約は新入社員が指定された勤務開始日に出勤した時点で成立します。
新入社員が出勤しなかった場合:
- 雇用関係が開始されていないため、EAは適用されない
- 雇用主は、EAが適用されるの予告手当や補償金を請求することはできない
- 雇用主からの賠償請求は、弁護士を通した民事上の請求になる
契約の解除
雇用主と従業員は、双方ともに雇用契約を終了させる権利があります。しかし、、雇用契約に記載された解雇の条件に従わう必要があります。
雇用期間
従業員の勤続年数は、試用期間後の確定日ではなく、勤務開始日から計算されます。
主要な雇用条件(KETs)
すべての雇用主は、以下の要件をすべて満たす従業員に対し、Key Employment Terms(略称:KETs)と呼ばれる重要な雇用条件のリストを書面で交付しなければなりません。
- 2016年4月1日以降に雇用契約を締結する
- EAの適用を受ける
- 14日以上雇用されている(勤務日数ではなく、契約期間のことを指す)
雇用主は、雇用開始後14日以内にKETsのコピーを従業員に提供しなければなりません。KETsはデジタルもしくは紙面で、渡すことができ、手書きのコピーでも構いません。休暇や医療給付などの一般的なKETsは、通常、従業員ハンドブックや社内の共有サーバーに記載されています。
KETsは以下の項目を含む必要があります。しかし、EAに従い、従業員に適用されない場合は、項目を除外することができます。(例:残業代や固定手当を適用されない従業員がいます。)
- 雇用主のフルネーム
→例:会社名、人名 - 従業員の氏名
- 従業員の職種、主な職務および責任
- 雇用開始日
- 雇用期間(有期契約の場合)
- 労働条件
→1日の労働時間、労働日数、休息日など - 給与支払期間
- 基本給
- 固定手当
- 固定給与控除
- 残業代支払期間(第7項給与支払期間と異なる場合)
- 残業代
- その他の給与関連項目
→例:ボーナス、インセンティブなど - 休暇の種類と日数
→例:年次有給休暇、通院休暇、入院休暇、産前産後休暇、育児休暇など - 医療給付
→例:保険、医療給付、歯科給付など - 従業員の試用期間
- 解雇予告
- (任意)勤務地
→勤務地が雇用主の住所と異なる場合は、その旨を記載すること。任意ではあるが、この情報を記載することを強く推奨している
試用期間
EAには、従業員の試用期間に関する条文はありません。EAに反する条件がない限り、試用期間は雇用主が決定し、雇用前に従業員に渡されるオファーレターまたは雇用契約書のいずれかに明記されます。
シンガポールでは、新入社員の業績と適性を評価するために、3ヶ月から6ヶ月の試用期間を設けることが一般的です。
雇用記録
2016年4月1日より、すべての雇用主はEAの対象となる従業員の詳細な雇用記録を保持する必要があります。
以下、どのような項目を記載し、どれくらいの期間保存すれば良いかなど、詳細な要件について説明します。
記録条件
- フォーマット:デジタルまたはハードコピー
- 記録保持期間: 現職の方の場合:直近2年分。 元従業員の場合:過去2年分、退職後1年間保管す
記録内容
記録は2つのカテゴリーに分かれています:
- 従業員の記録
- 給与記録
従業員の記録には、以下の項目が必要です:
- 住宅住所
- NRIC番号(シンガポール市民番号)
→非市民の場合は、ワークパス番号と有効期限 - 生年月日
- 性別
- 入社年月日
- 退社日(元従業員の場合)
- 労働時間(食事・休憩時間を含む)
- 休日および休暇の取得日およびその内容
給与記録には、以下の項目が必要です:
- 雇用主名
- 従業員の氏名
- 給与の支払日(給与明細が複数の支払日をまとめている場合は、その日付)
- 基本給
→時間給、日給、出来高払いの労働者の場合、すべてを記入する:基本給(例:時給Xドル)、総労働時間または総労働日数、あるいは総生産個数 - 給与計算期間の開始日および終了日
- 給与期間に支払われる手当(該当する場合)
→交通費などのすべての固定費 、すべての臨時手当(例:単発の制服手当) - その他、各給与期間に支払われる追加の支払いなど(該当する場合)
→例:ボーナス、休息日手当、祝日手当 - 給与期間ごとに行われる控除
→すべての固定控除(例:従業員のCPF拠出金)、すべての臨時控除(例:無給休暇、欠勤控除など) - 残業時間
- 残業代
- 残業代計算期間の開始日と終了日(第5項が異なる場合)
- 支払給与の合計額
上記の給与記録の項目は、従業員に渡される給与明細と同じです。
References:
https://sso.agc.gov.sg/Act/EmA1968
https://www.mom.gov.sg/employment-practices