ハロウィンを祝うのは非国民??

 またまた巷にカボチャが溢れる季節がやって来た。ハロウィンである。このお祭り、というのか、イベント、というのか、商戦?というものが日本で騒がれ出して、どのくらいだろう。15年ぐらいだろうか。私がオーストラリアに留学したのは2003年だが、その頃には話題にはなっていたが、今ほど大騒ぎはしていなかったように思うが…。
 この日本における“ハロウィン現象”、どうも私は馴染めない。そもそも私はへそ曲がりで、多くの人が一様に騒いでいる事柄には何となく冷めてしまう人間である。そこに持って来て、クリスマスやバレンタインデーと同様に、その行事の歴史や文化的背景と切り離され、商業的な側面ばかりがプロモーションされていることに強い違和感がある。
 更に!日本上陸当初はハロウィンが“海外”で広く流行っている行事として、その潮流に日本も乗り遅れまいというノリでPRされていたことに強い抵抗感があった。というのは、自分が住んでいた海外、オーストラリアではハロウィンはなかったからだ。ハロウィンなんてやってない国だってあるのに、と。
 かく言う私は、過去にハロウィンの日に「Trick or treat!」と、ご近所さんにお菓子をもらいに行った子供時代の経験を持つ人間だ。しかしそれはオーストラリアでの体験ではなく、オーストラリアの前に住んでいたカナダのバンクーバーでのことだ。今のジャスティン・トゥルードー首相のお父さんが首相をやっていた、昔、昔その昔の1960年代のことである。米国の隣国のカナダでは米国同様ハロウィンは年に一回の大きな子供のイベントだった。うちにもカボチャをくりぬいて顔に見立てたランプの傘(もちろんプラスティック製のものだが)があったのを鮮明に覚えている。毎年その時期だけ、傘を親が通常のものと付け替えてくれていた。
 どんなコスチュームを着せてもらっていたのかは覚えていないが、母親が当日やってきた子供たちにあげるお菓子を用意していたことや、それがどんなお菓子だったか、またご近所さんのお宅をピンポンするのが少々恥ずかしかったことなどをよく覚えている。ある年はお化け…正確にはお化けの扮装をした子供だが…が突然家に飛び込んで来て、驚いた弟が泣いてしまった、なんていう“事件”もあった。私は当時幼稚園児だったが、それでもハロウィンのことはカナダ時代の思い出の中で、かなり印象の強いものとして記憶に残っている。
 そのような体験があったので、オーストラリアに住むことになった時に、へぇ、と思った。ここは外国でもハロウィンがないんだぁ、あれ、やらない国もあるんだぁ、と子供心ながらに思ったものだ。ささいなことだが、海外では、と言っても、いろいろバラエティがあることを学んだ出来事だったのだが、それだけに、海外では流行っている、という文言で日本の消費者をハロウィンに掻き立てる商法にどうも馴染めなかったのだ。

 そして2003年に戻ったオーストラリア。やはりハロウィンの形跡はなく、大量のカボチャデコレーションに悩まされることなく平和な10月を送っていたのだが、なんと、いつ頃だっただろうか…2010年頃だろうか…オーストラリアにも遂に「ハロウィン」が上陸してしまったのだ!
 そもそもどういう経緯で入って来たのかは知らないが、私の目にもついたのは、それが日本と同じように商戦となって、日々の買い物の現場に進出して来たからだった。オーストラリアよ、お前もか、とガッカリだったが、当然地元オーストラリアでもハロウィンの登場に異論を唱える人たちが多くいた。一番引っかかるのは、それが米国発のものであり、オーストラリアのカルチャーが米国カルチャーに侵略されている!という部分だった。
 日本にも似た米国に対する感情が存在すると思うが、オーストラリア社会には米国文化への憧れがある一方で、それが自国の文化に浸食してくることへの危機感が少なからずある。所謂アメリカナイゼーションへの反発だろうか。特にオーストラリアが英語圏だけに、日本で以上に米国文化は社会に浸透しやすい。
 一番わかりやすいのがテレビ番組だ。日本では米国のテレビ番組を買って来ても、字幕や吹き替えを付けないと放映が難しい。手間と時間がかかる。ところがオーストラリアでは、そのまま簡単に放映出来てしまう。ある時そのことを怒っている友人がいた。彼女の子供が米国のテレビ番組を好んで観ていて、その結果、子供の話す英語が「米語」になってきていて、非常に嘆かわしい、と。
 そのようなアメリカナイゼーションへの抵抗があるオーストラリアなので、ハロウィンが進出するようになってからその時期になると、ハロウィンはオーストラリアのものじゃない、ハロウィンを祝うなんてUn-Australian(非オーストラリア的)だ!という批判をよく聞いた。ネット上に出回っているこの風刺漫画が端的な例だ。

2016年10月28日付、Newcastle Herald紙より

「ここはオーストラリアなんだから、ハッピー・ハロウィンなんて言うな!」という、オーストラリア社会のアンチ・ハロウィン感情を実に上手く、おもしろおかしく表現している。
 そんなオーストラリア、ではその後ハロウィンは今一つパッとしない状況なのか…と思えば、どうもオーストラリアも日本と同じ道を辿っているらしい。今年の様子を2大スーパー、ウールワースとコールスのウェブサイトで見てみたら、やってる、やってる!ハロウィン関連の特設ページが立ち上がっている。

Woolworthsのウェブページより

Colesのウェブページより

きっと店頭はオレンジと黒、カボチャや魔女、コウモリのデコレーションで溢れているのだろう。
 更によく見ると、コールスのウェブサイトには、カボチャ農家さんの紹介までアップされている。

 最近、商品と共に生産者を紹介する手法は日本でもよく見かけるが、正にその手法。この時期、やはりカボチャ料理をする家が増えているのだろうか。北米のカボチャ料理、と言えば、私はお菓子だが、パンプキンパイを思い浮かべる。パンプキンパイもオーストラリア大陸に上陸しているのだろうか?
 そして、更にカボチャのくりぬき方のユーチューブ動画まで、コールスのウェブサイトにはアップされている。


こちらは、そのカボチャのデコレーションの仕方だ。

 ハロウィンはオーストラリアのものか、という問いは、まだ発せられていて、ハロウィンが完全にオーストラリアで市民権を得た様子はない。それでも、一年、また一年とジワジワと浸透していっているのが日本からネットを見ているだけでもよくわかる。
 益々進行するアメリカナイゼーションを嘆くオーストラリアンたちの声が聞こえて来そうだが、しかし、よく考えてみればオーストラリアは移民大国。近年では中国の「春節」は国中で大々的にお祝いをするイベントになっている。そうであれば、米国からの移民、あるいはハロウィンの起源と言われるケルトの文化的流れを汲むオーストラリアの市民たちに意味のある行事が、オーストラリアで全国的な広がりを見せても、それは案外当然のことなのかもしれない。

 ただ、やっぱり少々微妙な感じがするのが、ハロウィンは元々は秋の収穫を祝う行事だということ。10月…オーストラリアでは春の始まりだ。そこのところはどう説明をつけるのか。いや、結局楽しければ、そして物が売れれば、そのようなことはどうでも良いのだろう。
 取り敢えず…

「Happy Halloween!」


【注】各写真はそれぞれのウェブサイトのスクリーンショット



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Yoko Harada

原田容子: オーストラリア・ウオッチャー。子供時代の一時期を父親の転勤にてシドニーで過ごす。以来オーストラリアとの交流が続き、2003年にそれまでの会社勤めを辞め、シドニー近郊のウーロンゴン大学に留学。修士号、博士号(歴史・政治学)取得。在メルボルンのディーキン大学で研究フェローを務めた後、2013年帰国。外務省の豪州担当部署に一年勤務。現在は個人でオーストラリア研究を継続する傍ら、大学で教える。