今年は比較的暖かい新年を迎えた日本。とは言え、今が冬であることには変わりはなく、冷え込む朝、布団からなかなか抜け出せない今日この頃…
しかし、テニスの全豪オープン開幕が迫るオーストラリアからは真夏のニュースが届く。やはり向こうも多少異常気象なのか、例年に比べると全豪が開催されるメルボルンを初め、シドニーなどの気温は低めではあるが、それでも西オーストラリア州ではオーストラリアの“夏の季語”とも言えるブッシュファイアーによる大きな被害が出ている。
オーストラリアが南半球に位置し、日本と季節が逆であり、向こうのクリスマスは暑いんだ、ということは、日本でも広く知られているだろう。しかしそれを北半球にいながら実感するのは、なかなか難しいことである。
オーストラリアでは、北の方が暑く、水の渦が北半球のように左巻きではなく右巻きで、太陽は西から上がり、東に沈む…というのは冗談だが、東から上がった太陽は北の空を通過して、西に沈む。
そして、何と言っても個人的に一番不思議だったのは、南風が冷たい、ということである。メルボルンの南風は、南氷洋からの風が直接吹き込んでいるのではないか、と思うくらい、殊の外、冷たい。
2008年元日、オーストラリア東海岸から臨む初日の出
日本の人は南国とか、南風とか、「南」という言葉を聞くと、暖かさを連想する人が多いだろう。
オーストラリアは確かに日本から見て南国となり、その北部に位置する人気観光地ケアンズなどは熱帯性気候に属するので、正に南国の性格を持ち合わせている。しかし、更に南へ下がると…気温は次第に下がっていく。このことは、一年のこの時期が暑いことも含め、オーストラリアに住む人たちにとっては、至極当たり前のことであって、それが彼ら“南半球人”の常識であり、基準なのである。
2010年7月、冬の寒空のメルボルン郊外
当然季節に関する常識にも違いがある。向こうで論文を書いていた時にしばしば苦労したのは「去年の夏」といったような表現を使う時で、それが北半球の夏に言及している時には「northern summer」とわざわざ「北」をつけて表現することが必要だった。
また、例えば誕生月についてのイメージも異なる。オーストラリアのベテラン歌手ダリル・ブレイスウェイトは、海が好きでサーフィンをすることや、ヒット曲に夏をモチーフにしたものがあることから「夏の男」と称されることがあるが、それは彼が1月11日生まれであることとも関係している。
1月生まれは夏の男…これは日本にはない感覚ではないか。「1月」と言えば、連想する季節はまず「冬」だろう。「夏」であれば7、8月か。しかし、それは“北半球人間”の観念なのだ、ということをオーストラリアは教えてくれる。そう言った私たちの固定観念や常識を次々と打ち砕いてくれるオーストラリアのことを、これから少しずつ書いていく。
【プロフィール】
原田容子
オーストラリア・ウオッチャー。子供時代の一時期を父親の転勤により、シドニーで過ごす。以来、オーストラリアとの付き合いが続き、2003年にそれまでの会社勤めを辞め、シドニー近郊のウーロンゴン大学に留学。博士号(歴史・政治学)取得。在メルボルンのディーキン大学で研究員を務めた後、2013年に帰国。現在は個人でオーストラリアの研究を続ける。特に同国のナショナル・アイデンティティ、捕鯨史、アジア・日本との関係に興味を持つ。